歪と歪波形
非線型とひずみと高調波について
■波形を知るべし
ひずみや高調波を調べるとき、歪率計やスペアナといった周波数軸で測定してくれる測定器はパッとデジタル表示で便利ですが、その反面ついつい波形がどうなっているのかを見落としがちです。
アナログ技術者たるもの波形を見ずして評価することなかれと
よく先輩から聞いたものです。
■2次歪3次歪とはどんな波形
アンプ設計をしていると2次ひずみが、3次ひずみが・・という話を聞いたりとか
アンプに基本になる周波数を入れ出力波形をスペクトラムアナライザで見たとき、図1のように増幅器が理想的な線形なら出力には入力信号が増幅された信号のみが現れ、非線型だと図2のように基本の周波数に対して2倍の周波数成分の2次ひずみや、3倍の周波数3次ひずみなどが発生するということは知っているのですが、いまいちどうなっているか、ピンと来ません。
図1
図2
このコーナーでは、少しでもイメージしやすいように時間軸波形で考え見ることにし基礎知識として理想的な歪波形をエクセルでつくってみることとします。
交流信号は「どのような波形でもサイン波の重ねあわせで表現できる」と学生時代に習ったかと思いますが、このことを思い出しつつもう一度基本に立ち返ってみましょう。
■増幅器を通ると出てしまう高調波
理想的な増幅は基本波を入力すれば文字通り増幅、すなわち信号の大きさを拡大するだけに徹して
基本波のみを増幅してほしいものです。
しかしながら、増幅器に非線型があると出力に基本波以外の信号が発生してしまいます。
そのことをもう少し詳しく学びます。
線形とは入力をx、出力yとすると、増幅率をAとすると
y=Axのような単純な関係にある増幅器で倍率がAです。
この特性を示すと図3のように直線です。
図3 直線のグラフ
ところが、極端な例ですが図4に示すような
Y=AX^2のような特性を持った非線形な増幅器に信号を入れるとどうなるでしょうか
図4 y=Ax^2のグラフ
いま、入力信号を
x=A・COS(ωt)・・・(1)
とすれば出力は
y=(A・COS(ωt))^2=A・COS^2 (ωt)・・・・(2)
となり、COS^2 (ωt)は三角関数の2倍角の公式により
COS^2 (ωt)=(1+COS(2ωt))/2・・・・(3)
とあらわされることから
基本波以外の2倍の周波数2ωtが現れることがわかります。
■入出力特性がexp(トランジスタのVbe-Ic特性)の場合
トランジスタを使った増幅回路を想定して入出力特性がexpの関数であらわされるときを考え見ましょう。
実際増幅に使うトランジスタの特性は2乗特性ではなくダイオードと同様に
下記のように図5に示すようなexpの関数を持っています。
図5 y=exp(x)のグラフ
実際のトランジスタの入出力特性の式は、
とあらわされます。
トランジスタには直流バイアス+交流が加えられるので 直流分VBEと交流分vbeとを(4)式に加えて
とあらわされ、今、expの関数はマクローリン展開の公式を使うと
とあらわされるのでVbeに対する出力電流icの式(5)は
exp(x)のx=qVbe/Ktとしたものだから、
とあらわすことができます。
Vbe以外の緑の○で囲った定数部分をまとめ、2項目の定数をΚ2、3項目の定数をΚ3、4項目の定数をΚ4とおくと
となります。
今、入力信号として単一の交流信号を加えることを考え
Vbe=Acos(ωt)とおくと
■(8)式の2項は
■((8)式の3項は
とあらわされ、COS^2 (ωt)は三角関数を2倍角の公式をつかって
と変形でき、2倍の周波数成分の電流が発生することがわかります。
■(8)式の4項は
COS^3 (ωt)は三角関数を3倍角の公式をつかって
と変形でき、3倍の周波数成分の電流が発生することがわかります。
出力電圧は電流ic・負荷抵抗なので、この式からもとの2倍 3倍 といった周波数成分が
アンプの出力電圧として現れることがわかります。
このように、入出力特性が非線形性を持つと基本波以外の次高調波が基本波に加わるのです。
■参考文献
・トランジスタ技術 CQ出版社 2004年8月号 P230
・2倍角の公式
http://examist.jp/mathematics/trigonometric/baikaku-hankaku/
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