エミッタ接地増幅回路(1石増幅回路)

エミッタ接地は回路技術者の登竜門

トランジスタを初めて使う時、動作理解する上で最も役に立ったのは、エミッタ接地回路でした。

基本的な回路ですが、奥が深く未だに新しい発見をさせてくれます。

このコーナーではそんなシンプルだけど、奥が深いエミッタ接地回路について学びたいと思います。

エミッタ接地増幅回路の動作

エミッタ接地回路は図1のような回路です。

回路シミュレーターLTspiceを使って動作を見ていくことにします。

コレクタ抵抗R2の両端に出力電圧が現れ、コンデンサで直流分をカットして出力としています。

トランジスタの本を読むと、トランジスタのVbeを、0.6V一定として、次の様に解析しています。

エミッタ電位は、入力電圧Vinから0.6V引いた電圧が出てきますから、エミッタ電圧はVe=Vin-0.6です。

図2のようにエミッタ電圧とベース電圧の波形を見てみると、エミッタ電圧の交流成分はベース電圧より一定電圧約0.6V下にシフトしてはいますが、よく見るとベースの振幅の大きさも、エミッタの振幅の大きさも同じです。

(図のシミュレーションではシフトしている電圧は0.7V強あるが、ほぼ「一定電圧シフトしている」ということが重要なので無視する)


図2ベース電圧とエミッタ電圧の関係

いま交流成分だけを考える(シフトしただけの電圧は無視する)と、ベースもエミッタも同じ振幅になります。

この入力電圧の交流成分をΔVinとします。

この交流成分によってエミッタにはΔIe=(ΔVe=Vin)/Reの変化する電流が発生します。

(本当は入力電圧によりVbeはわずかに変化するので、ΔVe=Vinではないのですが、エミッタ電位の変化に比べれば、微小なので無視します。(Vin>ΔVe シミュレーションではVin=200mVpp,ΔVe=186mVpp))

このエミッタから流れ出る電流は、ベース電流を無視するとそのままコレクタ電流(ΔIe=ΔIc)となります。

コレクタにはコレクタ抵抗があり、交流分のみ考えるとRC×コレクタ電流ΔIcの電圧がコレクタに発生します。

これが出力電圧Voになります。(V2-Rc*icなので交流成分はRc*icのみ)

以上入力から出力までまとめると

もともと入力信号の交流成分がエミッタ抵抗Reにかかることにより発生した電流

ΔIe=Vin/ReがRcに流れることにより、再び電圧となりました。

Vo=(ΔIe = )ΔIc×RC = Vin / Re ×Rc

この式を変形すると

増幅度はVo/Vin =Rc/Re

となります。

失敗して学ぶ

ところが実際に組んでみると失敗することがよくあります。

その失敗例を示します。私もはじめは失敗しました。

よくある失敗なのですが教科書にはあまり書かれていないようなので、ここではその失敗例を取り上げます。

増幅度はRc/Reで決まるので5倍のアンプを作りましょう

ベースで電圧は電源電圧の1/2=1.5Vとします。

エミッタのバイアス電流は0.5mAとしたいので、1.5V-0.6=0.9V

ここで0.9kΩとなりますが1kΩとします。

5倍のアンプを作りたいので1×5=5kΩとします。

 回路図は図3のようになります。

図3 5倍のアンプ 失敗版

さてどうでしょうか・・・

きっと出力には教科書で学んだ、入力信号の5倍のサイン波が出てるに違いありません

とおもいきや、出力波形を見るとおかしいではないですか

図4のような出力が出ています。

ムムム

 なんじやこりゃ

図4 失敗エミッタ接地の出力波形


コレクタ電圧のsin波の振幅が、そこで折り返したようになっています。

確に教科書ではゲインはRc/Re倍ののきれいなsin波が出てきていたのに

なぜ・・・

(そろそろお気づきの方もいるとおもいますが、)

思ったように動かないときは、各部の波形を、場所ごとに見て切り分けし分析することが大事です。

ここで、トランジスタのベース、エミッタ、コレクタの電圧波形を見てみましょう。

図5 トランジスタのベース、エミッタ、コレクタそれぞれの波形


この3つの波形から、あることが変わります。

①ベース電圧よりコレクタ電圧が低くなっている上に

②エミッタ電圧とコレクタ電圧が非常に近くなった図の緑のまるで囲ったところの波形を見るとコレクタ電圧が、エミッタ電圧にもちあげられ追従して変化しているように見えます

先ほどのコレクタ波形の折り返したような波形は、エミッタ電圧でコレクタ電圧が、よいしょと持ち上げられた波形だったようです。

コレクタとエミッタ電位の差を見てみると30mVまで接近しているようです。

そうです、コレクタ電圧がエミッタ電圧に近づきすぎるとトランジスタが飽和して

エミッタ電圧=コレクタ電圧となるため出力波形が変になっていたのです。

結局原因は、バイアス電圧のかけ方がまずかったのです。

コレクタ電圧がバイアス電圧のみの状態ですでにエミッタ電位に大きく接近しており、

信号を振幅する幅が十分にありません。

解決方法は、バイアスで決まるコレクタ電圧をなるべく高い電圧に

エミッタで電圧はなるべく低い電圧にすることです。

そこで電源電圧を分圧して作っていたベース電圧をR3,R4の値を変えてもう少し低くしてみましょう。

こうしてベース電圧を抑えることでエミッタの電圧も下がります。

するとエミッタ電流を少し減らすことができるので、RC×(コレクタ電流≒エミッタ電流)で決まる無信号時のコレクタ電位をなるべく高い電圧にすることができます。

ただしRc/Re=5の倍数は保ったままにします。

その修正版回路図が図6です。

図6 エミッタ接地回路修正版


さてどうでしょうか・・・やりました!

出力波形が図7で、緑色が出力波形、青色のラインが入力波形です。

図7改善後の出力波形

今度こそ5倍のアンプの完成です。

確認のため、先ほどと同じようにトランジスタのベース、エミッタ、コレクタの電位関係を見てみます。

図8改善後の、ベース、エミッタ、コレクタ波形

このようにエミッタ電位とコレクタ電位を引き離すことに成功しました

少し気になるポイント

ところでベース電圧(緑色)とコレクタ電圧(青)が逆転(コレクタよりもベース電圧が高い)している区間が少しあることが図からわかります

問題ないのでしょうか

トランジスタはNPNタイプのトランジスタを使っているので、通常ベースコレクタ間は逆バイアスで使うのですが、この区間はベースから見るとコレクタの電位が低いため一瞬順バイアス方向になりかけているようです。

しかし、トランジスタは正しく増幅動作をしています。

このつづきは、新しいトピックでお話します。

トランジスタ食堂

「トランジスタ回路をを料理するように素材を生かして設計したい」、そんな夢に一歩でも近づこうとする技術屋の奮闘記 by TechLABO